ある日の会話 〜男がいない〜

チャット。

文字による会話。

見ず知らずの人同士がチャットで自由に語り合う、そんなサイトがいくつかある。私はただの興味本位、野次馬根性で始めたのだが不覚にもハマってしまった。
当然ながら何処の馬の骨ともわからぬ連中が集まるわけで、会話すら成立しないということはしょっちゅうだ。しかしそこでやめてはいけない。次々と相手を変える、淡々と。怒ったり諦めたりするのは不毛である。下ネタにも意味不明のシャウトにもキモい画像にも負けてはならない。そうやって何度も何度も相手を変えていくとごく稀にだが話せる相手と出会うことがある。考えてみればリアルでも同様だ。リアルでは見た目による判断が可能なため話すことは滅多にないが。

相手は22歳の女性だった。
私はくだらない冗談ばかりを浴びせかけ彼女との文字による会話を楽しんでいた。とはいえそれもずっとは続かない。
少し真面目な話。
記憶を頼りにほんの一部再現しよう。

女 彼氏はおらん。けどこれからもずっとこのままのような気がする
俺 男なんていくらでもいるだろ?ちょうど世の中の半分くらいな
女 そういうことじゃ・・orz
俺 ?
女 男がおらんのです

と、ここで通信が切れた。彼女が切ったからである。リアルとは違ってチャットにはこれがある。突然の切断。不快になれば切ればよい、そうやって理想の相手をみつける(しかしそれではせっかくの偶然が台無しのような気もする)。
私はなにか悪いことを言ってしまったのかなと思った、そして出した初めの結論は彼女には恋愛対象となるような男性が身近にいない、ということだった。それに対する私の無理解に腹を立てたのだと。
しかしそれでもなにか気にかかることがあった。すっきりしない。彼女は”好きな”男性がいないとは言わなかったからだ。その箇所に引っかかったのである。つまり

世の中に男がいなくなった

と言いたかったのではなかったか。
それは妙に私の心を捉えた。
そこで再びチャットを始めて相手が女性であることを確認し、いままでの経緯を説明し男がいないって本当かどうかを聞いて回った。相手から見れば私は何を目的としているのか見当がつかず困惑し、気持ち悪がられたし酷く誤解もされた。それでもしつこく食い下がった。
結論を言えば、大賛成ってわけではないが理解出来るということだった。データ数少なすぎるけど。
自己実現という言葉やそれに類するスローガンじみたものは氾濫しているものの結局それらは軽薄なビジネスに回収され、自己決定しようものなら直ちに干されてしまう。そのような動向はチャット内にもしばしば見受けられる。一部の”成功者”はいるとしてもそれでは彼女の願いは叶えられないだろう。

”ずっとこのままのような気がする”

彼女はポツンと街に突っ立っている

周りには会社員や学生などの男性がごまんと通り過ぎていく

そこに”男”はいない